ビブグルマン巡り|東京2020・ラーメン #9:冴えわたる匠の技! 6年連続ビブグルマンの、 らぁ麺 やまぐち @西早稲田[東京都新宿区]

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特製鶏そば
特製鶏そば

芸術的な美的感覚が投影されているかのように、端正にして気品漂うラーメンが着丼。

 

淡麗系のお手本のようなスープ
醤油スープ

あっさり味の醤油スープは、穏やかで控えめな体裁の奥に滞留する旨味のふくよかさが並大抵ではない。清湯であることを鑑みれば、この味わいは破格であろう。このような十分に自制されつつもパワフルな二段構えのスープに下支えされて、麺が存分に活きてくるところにこそ、淡麗系ラーメンの真髄があると言えよう。

 

上質感溢れる2種類のチャーシュー
チャーシュー

チャーシューは豚と鶏の2種類が載る。どちらも上質感に溢れ、東京の超一流店の間では普遍的なステレオタイプにはまっている様相である。ともに淡麗系スープに適した淡白な味で、鶏チャーシューは抜群に柔らかく、しっとりとした食感である。豚チャーシューも柔らかいが、鶏チャーシューよりも多少歯応えがある。これらは上々の出来だと称賛したいところだが、実は今回は豚チャーシューに固くて食感が悪い部分が含まれていたので、概ね良好と評するに留める。

 

柔軟性に秀でた細麺
細麺

程良い硬さの細麺は、らぁ麺 飯田商店ラーメン屋 トイ・ボックスと同じく、流麗な柔軟性を顕示する仕様である。ただしらぁ麺 やまぐちの場合は、麺に一定量の弾力を保持し、ややしなるような感覚を付与しているようで、飯田商店トイ・ボックスとはその点で微妙に異なる。どちらが優れているかについては判断が難しいが、やまぐちのように麺にわずかなしなりを加えると、その分だけスープの絡みが悪化するように思えるので、結局は一長一短であろうか。

 

総括
店舗の看板

今回は、6年連続ビブグルマンらぁ麺 やまぐちで限りなくパーフェクトに近い淡麗系ラーメンを味わい、かの天下第一の淡麗系の名店らぁ麺 飯田商店に匹敵する完成度であることが確認できたのだが、然らば何故にメディアの評価や人気において、やまぐちラーメン屋 トイ・ボックス飯田商店に大差をつけられているのであろうか。飯田商店にはあるのに、やまぐちトイ・ボックスにないものとは、いったい何であろうか。そう問われれば、もしかしたら即答できる人がかなり多いのではなかろうか。尚、私は先々月、静岡県沼津市にある湯河原 飯田商店を訪れ、昨年は新宿で開催されたTRYラーメン大賞・フェスティバルを訪れ、飯田商店の最近の味は把握できているが、湯河原町の本店は2018年5月24日以来2年余り訪れていないので、味以外で本店について述べることは、最新の状況と一致しない可能性もあると、予め一言断っておく。さて話を戻すと、湯河原町にあるらぁ麺 飯田商店を訪れると、一つとてもよく目立つ事実があり、それはやまぐちトイ・ボックスにはない。そう言うともうお分かりの人も多いかもしれないが、飯田商店には美人の女将がいる! と、冗談はさて置き、というか、あながち冗談でもないのだが、料理以外の様々な面でも飯田商店は細やかな配慮が行き届いている。気品と清潔感に満ちた店内の雰囲気は言わずもがな、男性店員は高級割烹料理店みたいな服装を、女性店員は小綺麗な和服を着用している。そしてよく整理整頓された綺麗な厨房は客の眼前にあり、店主の飯田将太氏が小劇の主人公さながらに達人の腕前を披露し、客は料理が出来上がっていくのがよく見える。やがて至高の一杯が到着すると、箸帯の巻かれたとても上等そうな箸を手に取って、今度は我々がその小劇に参加するかのような感覚が生じる。そうして食べ終えた後は、我々は一個の小劇的な体験として、飯田商店のラーメンを記憶することになる。こうした仕掛けは、男性的な感性だけでは到底構築できないように思われ、やはり女性の繊細な感性が必須であろう。ある程度は女将のおかげで飯田商店の大躍進は成し遂げられたのかもしれないと、私が推測するゆえんである。いずれにしても、味を極めたラーメン店がラーメン界のヒエラルキーの頂上を目指して最後の一段を這い上がるには、味以外の要素で勝負する必要がある。その勝負で成功しているのが飯田商店であり、まだ成功していないのがやまぐちトイ・ボックスと言えるだろう。

 

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