北海道ラーメン紀行 #2|滋養軒:徹底的に没個性を押し通した塩ラーメンで、人気を博す老舗[北海道函館市]

最終更新日

チャーシューメン(塩味)
チャーシューメン(塩味)

敢えて函館ラーメンだと規定するに足るアイデンティティがいったいどこにあるのか、首を傾げたくなるほど、どこにでもありそうな見た目の塩ラーメンが着丼。

 

素朴なあっさり味のスープ
塩スープ

塩スープはあっさり味で、穏やかで優しげな昔風の素朴な味わい。あっさりの体裁の裏側には滋味深さが潜んでいる感じで、薄味ながらバックボーンがしっかりしている。なかなか良好な出来栄えだ。

 

あまり特徴の目立たない麺
細麺

適度な茹で加減の細麺は、あまり特徴の目立たない作りだが、強いて挙げれば、ややシコシコ感が表れていて、かつ若干のもっちり感と柔軟性も伴っている。なんとなく優しげなイメージの麺に仕上がり、スープと上手く同調できている様子。

 

ごく平凡なチャーシュー
チャーシュー

チャーシューは昔ながらのごく平凡な作りで、歯応えがそこそこあり、ちょっと田舎っぽい野暮な雰囲気も醸している。そういう風なので、全体の没個性的イメージを形成するのに、一助を担っている。

 

総括
暖簾

今回は、函館にある1947年創業の老舗の滋養軒で、函館ラーメンを味わったのだが、麺もスープもチャーシューも没個性で、いわば没個性の三段構えといった風なラーメン、つまりは徹底的に只の塩ラーメンであった。然らば平凡なラーメンなのかというと、決してそうではない。それは函館で随一かもしれない人気振りを見れば、想像がつくわけだが、ではこのどこもかしこも平凡な感じのラーメンが、いったいどうして平凡なラーメンではないと言えるのか。それは没個性を徹底しているからである。どの要素も目立たず、主張せず、頑として完全なる沈黙を貫いている。そこまでするなら、もう逆に沈黙をもって主張しているに等しい。没個性を徹底するという個性を持っているに等しいのだ。したがって、個々の要素を見ればごく平凡なのに、全体を見れば非凡な印象を受けるという、ある意味で奇妙にも思える反転現象が生じることになる。客からすれば、どこも普通なのに、不思議と普通でない雰囲気のラーメンだと感じられ、なんとなく面白みがあって、粋な風情が喚起される。その辺りの逆説的な事情にこそ、滋養軒が人気を集めている秘訣があるのだろう。

 

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