ビブグルマン巡り|東京2020・ラーメン #10:ミシュランガイド新参の『中華そば 銀座八五』が魅せる挑戦的ラーメン @銀座[東京都中央区]

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特製中華そば・大盛り
中華そば 銀座八五

なんとも端正にして優美。胡弓の調べなんかと見事に調和しそうな、雅びやかな和の風情をまとった一杯が着丼。

 

工夫を詰め込んだ挑戦的スープ
塩スープ

TRY大賞によると、この店のスープはカエシ(タレ)を使用しないとのことで、ラーメンの常識を覆す作り方である。尤も完全に独創的というわけではなく、例えば岐阜県高山市のご当地ラーメンの飛騨高山ラーメンは昔からそういう作り方をする。話を戻すと、チャーシューに載った高級黒胡椒のペッパーキャビアを混ぜ込んだ塩スープは、パンチの効いたなかなか粋な味わいである。けれども、微妙に雑味感が漂い、なんとなく曲者といった風な出来。またミシュランガイドによると、生ハムとゲランドの塩で仕上げてあるとのことで、言われてみれば、ほのかにハムの風味が感じられる。だが、「それがどうした」という所感以上のものはもたらさないようだ。結局のところ、様々な工夫を凝らした挑戦的なスープではあるが、工夫が空回りしている印象を受ける。

 

存在感のある細麺
細麺

適度な茹で加減の細麺は、際立った特徴がない仕様だが、決して特徴の表れが弱いわけではなく、弾力性・柔軟性・シコシコ感・もっちり感がまるで互いに牽制しあっているかのように、いずれもそれなりの強さで表れている。したがって麺にしっかりとした存在感があり、只者ではない雰囲気を醸している。

 

質感がやや凡庸なチャーシュー
チャーシュー

チャーシューは元々上品になりにくい素材を強引に上品に仕立てている感じ。馬子にも衣装という諺が思い浮かびそうだ。これはこれでなかなか旨いし、いい出来なのだが、東京の他の超一流店と比べると質感で劣っているのは明々白々。なので店側もチャーシューに自信がないのか、メニューにチャーシューメンやチャーシュートッピングがない。

 

総括
店舗の看板

今回は、ミシュランガイドに初めて掲載された人気店の中華そば 銀座八五で、パイオニア精神に溢れた挑戦的なラーメンを味わったのだが、結果、挑戦的要素が上手く機能しておらず、未熟な感じがする一杯であった。店主は還暦ぐらいの老齢で、フレンチのシェフとしては円熟しているはずだが、ラーメン職人としてはキャリアが浅く、その点がもろに反映されているラーメンとも言えそうである。ゆえにある意味、ラーメン界の頂点を目指して、日夜自らの味に磨きをかけている若いラーメン店主と、銀座八五の店主は同じ境遇にあるわけだ。しかしながら抜群の人気を得て、ビブグルマンにも選ばれ、それで満足して老齢ゆえの守りの姿勢に転じてしまうのも、また人として自然なことである。だが指摘したいのは、完成されたラーメンでビブグルマンになるのと、未熟なラーメンでビブグルマンになるのでは、秘めた可能性・将来性がまったく違うということだ。銀座八五のラーメンにはまだまだ先がある。パーフェクトなラーメンに至るまでに、まだ多くの研鑚を積まなくてはならないだろうが、若者のようなチャレンジ精神を忘れず、いつかその極め尽くしたラーメンを作り上げてもらいたいと思う次第。

 

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